2013/08/18

「いつかの風景」  長谷川銀・個展

普段、暮らしの中で 「ああ、」 と目にとまる一瞬というものがある。


犀川の川辺に仕事場を構えてもう20年になろうとするけれど、今だに季節の移ろいの中で感じるちょっとした変化や、今なら夏の日差しの中にある草いきれとか、鳥や草や虫の気配に立ち止まったりする瞬間がある。
たとえばそんな一瞬を捉えて表そうとする、長谷川銀さんの個展に伺った。

銀さんはもともと油絵を専攻されたそうだが、その作品は写真・絵画・造形と手法を選ばない。ともかく自身の身体が捕らえたその美しい一瞬を、複数の手段を使って表現し、共有しようとするもののように思えた。

蔵に展示された平面作品では、薄布にプリントした写真の裏にペイントを加えることで、「表面」に薄い深さが生まれ、その一瞬を 「思い出すように」 再現しているのが印象的だ。

さらにインスタレーションでは、(これは驚くべきことなのだが、)会場となる民家の庭の光や、座敷の空間に注目し、その「作品」によって場所にほんの少しだけ手を入れることで、うつくしく輝くような気配を実現して素晴らしかった。

場所の空気感を設計することは、建築の大きな目的のひとつであり、彼女がそこに気づき表現しようとしていることに驚いたし、とても新しいものを感じた。


@ 石川国際交流サロン・金沢市広坂1-8-14  8月25日(日)まで





2013/08/01

「大阪工業大学」  2012・夏



 「後輩のために、一肌脱いでくれませんか・・」

ちょうど一年前の夏、母校から突然の問い合わせがあった。
現在大学では、授業で取り組んだ課題をさらにブラッシュアップして、一年にいちど学外の審査員によって最優秀案を決める 「全体講評会」 を開いていて、今年はぜひ審査に参加して欲しいという。大学が私のような者の存在を知っていたことにまず驚いたが、懐かしくもあり快諾した。

久しぶりのキャンパスは増改築により高層化していて、当時の面影はまるでない。15階の審査会場へ向かう。そこからは淀川の蛇行や遠くに生駒山が展望できて、まるでホテルのラウンジのようだ。

審査員は、広島在住の気鋭建築家・谷尻誠さん、OBであり安井建築事務所で海外のビッグプロジェクトを手がける畑正俊さん、と私の3名。審査にはそれぞれの考え方の差が現れて、とても刺激的な経験をした。

審査することは、同時に審査されることでもある。
大きなエネルギーを注ぎ真剣に取り組む若者の作品を前にすれば、 「 一肌脱ぐ・・」どころか、自身の考え方や嗜好や、もしかしたら人格まで全てを裸にせざるをえない、それは厳しい場に立たされることになったのだった。








































































































2013/07/15

「石川建築賞」

昨年竣工した「伏見台の家」が石川建築賞・優秀賞を受賞し、表彰式に出席。

表彰の後、審査委員長による受賞作品の講評があった。
この建築については、街や公園との関係を積極的に設計に取り入れていることや、建築主とのよい関係をつくることでその家族ならではの暮らしをデザインしていること、などが評価されたそうでとてもうれしく思った。

式に引き続き懇親会があり、建築主ご家族や施工に当たった「みづほ工業」も参加し、共に苦労を振り返り喜びを分かち合った。さらに、子供たちからサプライズの手作り表彰状(ダンボール製立体飛び出し式!)を頂いたりして、これにはすごく感激した。

その数日後、友人が集まって祝杯を挙げてくれる。写真の焼き物はそのときのプレゼントで、九谷焼き作家・山下一三さんの手作り。「伏見台の家」の「ふ」の文字が断面になった筆置き。

どちらも世界にひとつしかない贈り物、大切にいたします。





2013/05/25

「明るい庭」

庭がきれいだというので、お願いして「伏見台の家」の撮影をさせて頂いた。暮らし始めて一年後の撮影は、協力していただけるだけですごくありがたいものだが、この日はきれいに掃除をし飾り付けをして、ご家族で待っていて下さった・・。


















この住まいは、中庭を持つコートハウス。
写真右手には公園があって、2階のリビングからはその大樹と遠くに山並を望むことができる「借景の家」でもある。駐車スペースをいくらか緑化することで、公園が少しだけ広がったように感じられたらいいなと思った。










































前庭の一部は菜園になっていて、いくつかの野菜が草花といっしょに植えられている。
デザイン的には花壇の小口を薄く見せているところがミソ。土間はコンクリートを洗い出して骨材を見せ、素材感を出している。










































隣接するアパートの間を、小さな草花のあるアプローチとした。
途中に段があり、その手前に水盤をしつらえてある。エントランスまでの長い距離は
正面にアイストップとなる樹を置くことで、楽しいものに変えることができる。日本庭園からの教え。










































「玄関は小さく」、と言ったのは村野藤吾先生。「玄関にシャラシャラとした光が入ったら成功、」と言ったのは斉藤裕氏。中と外をつなぐエントランスは、待ち受け画面のよう。










































コート掛けのフックに手作りの可愛いオブジェが掛けられていた。思いがけない使い方をしてくれるのを見るのは、家をいっしょに作っているようで、すごくうれしい。









































中庭のメリットは、ひとつの樹を複数の部屋から楽しむことができるところ。 道路からの視線を気にすることもなく窓を開け放すことができ、部屋に光と風を運んでくれる。  

全ての部屋にデッキがあるので、庭へ出たり、木に触れたり、そのまま隣の部屋へ移動したりできる。

                                                                            




































2階には広いデッキがふたつあり、外部階段で1階とつながっている。
ご家族にはこの夏に向けて、デッキに朝顔の緑化テントを架けるプロジェクトがあるそうだ。どんな風になるのか今から楽しみ。
2階デッキからの光景。
壁の手前が中庭で、向こうが公園。景色は官民境界をまたいでつないでいる。

日本には「借景と」言う言葉があるけれど、景色の貸し借りとはおもしろい。
ならばどうやって返すか、そこが問題だ。 

作品詳細は、こちら。                           

2013/04/01

「金沢工業大学」  2013・春

金沢工業大学で三年生の設計課題の授業をお手伝いして、もう13年目になる。

大学のキャンパスには堂々たる大樹が多くていつも素晴らしい。とりわけ春、2号館中庭の見事な枝垂桜を見ることは新年度の楽しみのひとつだ。最大の楽しみは、新しい学生諸君の顔を見ることに尽きるのだが、その前に30分間パワーポイントによる自己紹介の時間をいただいていて、それが今だに緊張する。それは自身の賞味期限を考えるからで、学生時代の私は冷静に教師を値踏みしていたものだ。

今年は、そんな学生時代に傾倒したル・コルビュジエの話から初めて、近代建築の五原則を経由し自作の「Gペントハウス」を紹介することにした。このペントハウスはマンションの屋上にある最小限住居で、第一課題の参考になればと思う。

コンクリートの技術が可能にしたフラットルーフの屋上は、空に近くて日当たりと眺めの良い快適な場所だが、なぜか日本ではあまり利用されていない。屋上を第二の大地と見立てて建築の大切な要素と位置づけたのは、ル・コルビュジエその人だった。あらためて作品集を見ると、彼の屋上はどれも船のデッキのようで、いかにも機械の時代の建築を思わせる。

私の屋上はといえば、借景の枯山水。日本的なものを現代の技術と材料で再構成している。特に夜景では、街の小さな光を庭につなげるデザインを工夫した。

作品詳細は、こちら。





2013/03/30

「住宅見学会」

早春の晴れた日に、クライアント候補を「寺地の家」と「伏見台の家」へご案内する。休日にもかかわらず両家とも家族総出で歓待して頂きありがたい。庭と室内の関係に意を注いだので、そのあたりを見てもらいたかったのだが、新緑にはまだ少し早かった。

とはいうものの、久しぶりに訪ねた家は住み手の色にほんのり染まって、幸せそうだった。持ち込まれた家具や道具類も自分の居場所を見つけてしっくり納まっていた。とても納まりそうにない子供たちは、家や庭を元気に家を走り回っている。設計した建築がすくすくと育っている様を見るのは(いまどきの変な日本語だが)、普通にかなりうれしい。

作品詳細は、こちら。


2013/03/03

「白山比咩神社」 むすひ

「白山しらみね薪の会」設立フォーラム@鶴来公民館の帰りに、「しらやまさん」へ。今日、三月三日は豊年講春季大祭、白山の豊かな水に感謝する日だった。凛とした空気の中、見上げると注連縄(しめなわ)が、こちらを見下ろしていた。

注連縄は縄を締めたもの。縄は稲作と神道を文字どうり固く結んでいる。
wikiによると、結ぶの「ムス」とは「ウムス(産むす)」のムス、「苔ムス(生える)」のムス、とのこと。つまり生命力を奮わせるの意が込められているそうだ。そういえば、注連縄を腰にする横綱は横の綱、つまり注連縄そのものだが、圧倒的な力量を身体条件としていたり、天覧相撲というものがあったりで、神道に纏わりいろいろとリンクする。

妙にむっちりとした注連縄の姿は、エロスの形象だったのかもしれない。




















































2013/02/23

建築逍遥 「海と渚の博物館」

若くして肺を煩い闘病生活を送ったことがある。医師から、美味しいものを食べて散歩でもしていなさいと言われ、有り余る時間を、読書と散策と設計コンペに費やした。その中で、幸運にも「セントラル硝子国際建築設計競技」に入賞、私の案を押してくださったのが内井昭蔵先生だった。

海の暮らしを紹介するこの博物館は、県内にある先生の作品。なんといっても圧巻は、船を裏返したような屋根の小屋組みだ。先生は晩年の仕事でコンピュータを駆使しており、おそらく「からくり記念館」同様、この複雑な曲線の架構を、その技術と遊びながら設計されたのではないかと思う。たっぷりとした三次曲面の屋根は、先生の大らかな人柄と重なるものを感じる。建築が海のやさしさと厳しさの両面を表現しているように思う。

この4月から能登有料道路が無料化となる。展示内容は体験型なので、建築関係のみならず家族連れや観光客にも楽しめる内容だ。白尾インター下車、西田幾多郎記念館の近くなので、ぜひとも多くの方に訪ねていただきたい施設である。




































2013/02/08

「寺地の家」 石川建築賞作品展

建築士会主催の「石川建築賞作品展」が、石川県庁の展望ロビーで開催されている。
大賞の「鈴木大拙館」や優秀賞の「金沢海みらい図書館」と並んで、私たちの「寺地の家」も末席に加えていただいた。

この「石川建築賞」は今年で第34回を迎える歴史ある賞、展示会は毎年セットで開かれているものだ。内容は受賞作品だけでなく、賞へ至らなかった応募作品も展示されていて、当落の境界を探ることができるのがおもしろい。

作品の傾向は多様で、落選案にも斬新な発想の力作が見られた。評価軸が少し変われば当落はたやすく逆転しただろう。石川県の建築レベルは相当上がってきており、入賞のハードルは年を追うごとに難しくなっている。充実した作品群を見るにつけ、今年は近年のひとつのピークを迎えた感があった。

展望ロビーのカフェで休憩、今日は風が強く、遠くから雨が近づいてくる様子が見える。日本海から白山まで見渡せる景観は、雪や雷の日も素晴らしいことだろう。この展望ロビーは石川の風土を見るには絶好のビューポイントだ。

一方、県庁周辺の街並みを見ると、中心市街地に比べて民間の駐車場が異常に多いことに気づく。加賀や能登からの優位な立地は、これらの車が支えているのだろうか。石川県は観光立県を推進しており、県内外の来客も多い。この乾いた駐車場を緑化するアイデアと街づくりの約束事があればと思った。
(石川県庁舎19階展望ロビー  2/14まで)

作品詳細は、こちら。

















































2013/01/19

「一笑」 染め帯


東山に「一笑」が出来てからもう随分時間が経った。1994年の夏、一笑は加賀の丸八製茶場の金沢店として計画され、朽ち果てた町家を改修してオープンした。店舗には喫茶と茶葉の販売に加えて、小さなギャラリーを備えていて、茶器を中心に加賀能登の作家の作品が展示され、大いに賑わった。
店名の由来となる小杉一笑は藩制期金沢の俳人。それもあって二階座敷では句会、花会、茶会と
様々な和の催しが開かれてきた。ミセ・マチ・ヒトを育てることが「プロジェクト・一笑」の命題だった。

今回は加賀友禅。染め帯講座ということで、着付けの専門家・大久保信子さんを講師に、着物にぞっこんの20名が参加した。ほの暗い座敷に広げられた染め帯の数々は、まさに陰影礼賛の世界。金沢ではこのように、長く暗い冬の室内で華やかな友禅や九谷を愛でてきたのだろう。季節の移ろいを衣食住に楽しみ、合わせたり、揃えたり、競ったりと、着物を楽しんだのだろう。民間企業の一店舗ではあるが、このような活動を通して金沢は民度が高まり、歴史都市として分厚く成長してゆくのだろう。

作品詳細は、こちら。